久しぶりに海で泳いだ。
乳がんと診断されて以来だから17年ぶりだ。どれだけ泳げるかちょっと不安だったが、何とか沖のブイまで泳いでいくことができた。ロープに座って一休み。ついでに砂浜の家族に手を振る。
泳ぎは平泳ぎと横泳ぎ。横泳ぎは日本の古式泳法のひとつで、子どものころ母から教わった。今時めったに見ることはないが、平泳ぎを縦にしたような感じで、顔を斜めに水面から出したままでいられるから、呼吸をずっと続けられて楽なのがいい。
それでも若い時と同じにはいかず、息があがると仰向けに浮かんで休む。頭上には青い空だけ、身体のまわりには海だけ、という満ち足りた解放感は、以前とちっとも変わらない。
海はいつでもここにある。
わたしが生まれるずっと前から海はあって、わたしが死んだ後もずっと変わらないだろう。ここには「永遠」がある。いつかわたしが死んだら、わたしは分子に戻ってこの永遠の一部になれると思うと、深いやすらぎを感じてひとり微笑む。