「マドちゃん、スッポンがおったよ。見に行く?」と亭主がわたしに聞いた。
「行く行く! 見る! どこにおったん?」
「道の傍の田んぼがジルい(地面の水気が多くてグチョグチョ)じゃろ。で、エッチラコッチラ排水溝を掘りよったら、鍬(くわ)がカチッて硬いもんに当たったんよ。おかしいな、石かな、と思うて見たらスッポンじゃった」
「スッポンてようわかったね?」
「そりゃ、スッポンはほかの亀と違うて甲羅が柔らこうてスベスベしちょるから、すぐわかる」
目を輝かせたわたしが行ってみると、スッポンは泥の中にいた。どうも冬眠を邪魔したらしい。亭主殿はちゃんと鍬を用意していて、ひっくり返してわたしに見せてくれた。意外にも腹は白く、手足には水かきが見える。よく泳ぐのだろう。
亭主が持ち上げると、スッポンは首をニューっと伸ばした。長い、長い。甲羅の長さくらい首は伸びる。強壮剤として人気がある理由が、その姿を見るとよくわかる。
カパッとスッポンの口が開く。一度噛みついたら「雷が鳴っても離さない」と言われるほどだから、わたしは手を出さない。
ちょうど隣のタケさんの家には孫さんが来ているらしく声が聞こえる。わたしが呼ぶと4人で出てきた。みんなで観察。
「こねぇな、ちぃと川から離れちょるところにもおるんじゃの。いつやら、もちぃと下(しも)の方で大きなのを見つけたのがおっての、料理屋に持ち込んで食べたそうな。あんたもどうね?」とタケさんがからかう。
「う、特に食べんでもええ」
「お金がもうかるん?」と小学生が尋ねた。
「ハハハ、こねぇな小さいんじゃ無理じゃの」
というわけで、スッポンは田んぼの端に戻され、あっという間に泥の中にもぐっていった。