猪の捕獲・解体の見学 その5

自然・動物・農業

猪の青みがかった灰色の横長の臓器は膵(すい)臓だった。人間の内臓図でも、よく膵臓は青っぽい灰色で描いてある。あれは実際の色だったのだ。

長い管が曲がりくねって重なっているのは腸だ。これも人間と同じ。古来、ヨーロッパやモンゴルの遊牧民族は腸の中身を出してきれいに洗い、ソーセージの皮やテニスラケットのガットとして使っていた。しかし現代の日本ではゴミバケツ行き。

解体作業は気持ち悪くないか、と聞かれるが、わたしにとっては医薬関係の調査で見慣れた人間の臓器の図と同じで、非常に興味深い。ま、わたしが極めつきの物好きであるのもまちがいないが。たぶんわたしの眼はランランと光りっぱなしだったろう。

腹をすっかり空にすると、ジンさんたちは水できれいさっぱり中を洗い流した。そして皮をはがしていく。昔カナダの人気作家アン・マキャフリーのSF小説を英語で読んだ際、皮を剥(は)がすのには技術が要るという箇所があったが、確かに、1センチほどの厚さの美味い皮下脂肪を肉側に残し、小まめに皮のすぐ下を切っていくのは時間のかかる作業だった。

脂身を切っていると、ナイフの切れが落ちやすい。3人は傍の電動砥石でかわりがわるナイフを研いでいた。

途中で猪を再び吊るし、皮剥ぎが続いた。垂れ下がった毛皮を、1人が縦横に裂いて別のバケツに入れていく。廃棄するのだが、「細切れにしちょくと、肉食の狐やら鼬(いたち)、鳶(とび)、雑食の猪(共喰い!)なんかが取って行って食べるけぇ、辺りが汚れん。じゃが、一まとまりじゃと結局はそこに残って腐ってしもうて、悪臭がするからね」とのことで、この人たちの慣れた賢いやり方にわたしはまたも感心した。

「タンを持っていくかの?」

「うん」

わたしは迷わずうなずいた。アメリカに住んでいたころ、スーパーで牛の舌を丸ごと買ったことがある。ザラザラの皮をはがすのにものすごく苦労した。半解凍だとカンタンなのだと、今ではわかっている。タンシチューにしよう。「この喉に近いあたりが柔うて美味いのよ。舌の先の方は硬いけん、たいがい捨てるで」。了解。

 

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