猪の捕獲・解体の見学 その6

自然・動物・農業

ここで舞台は風の冷たい屋外から、傍の温室のような場所に移り、精肉に分けて袋詰めする作業となる。暖かくてありがたい。もう、わたしもケイさんも立ち姿勢に疲れていて帰りたかったのだが、作業が全部終わるまでは「お先に失礼しまーす」とはとても言えない。

実はケイさんは、ジンさんにわたしを紹介してくれた手前ついて来てくれたものの、残酷シーンを見るハメになるのではないかとヒヤヒヤしていたらしい。「もう、車の中で待っちょるか、あんたを置いて先に帰ろうかと思うちょったんよ」。しかし、頻繁に血を洗い流すせいか、現場は意外にきれいで臭いもせず、恐くもなかったと後で笑っていた。

背骨の内側に沿った、肺のすぐ後ろの細長い肉は「セミと言うての、猪で一番美味いところじゃ」とジンさんが嬉しそうに笑う。「ここは猟師の特権で、捕ったもんがもらうのよ」。

そのとたん、わたしはひらめいた。「そこって、牛だとヒレって呼ばれるところ?」「そうよ」とジンさんはうなずいた。わたしは今までずっと、ヒレが牛の体のどこにあるのか不思議だったのだ。肉の部位の名前を示す図は横から見たものが多く、肩ロースや腹のバラ肉がどこかは何となくわかっても、ヒレの正確な位置だけはわからなかった。長年の疑問が解消して、わたしは1つ満足した。

尻に近い部分に血だまりがあった。ここまで鉄砲の玉が来たんじゃ、と1人が説明しながら、小指の爪ほどの小さい銀色の玉をわたしに見せてくれた。一方は丸く、反対側はひしゃげている。フム、推理小説やテレビの警察ドラマでの銃弾のとおりだ。

 

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