切り分けられた猪肉をケイさんが秤にかけて約500グラムにし、わたしと袋詰めにした。それまで見学ばかりで申し訳なかったわたしにも、やっとできる作業があったのだった。そしてジンさんが袋の肉を5列に並べ、あんたらも1列ずつ持って行きぃ、と親切にも言ってくれた。食肉として販売するには別の厳しい審査や免許が必要で、仲間内で分けるしかできないらしかった。
わたしが目を輝かせて、ハツ(心臓)も食べるからもらえないかと頼むと、1人が冷凍庫から別のハツを4つも出してくれた。
「もっとエエもんもあるで」とニヤリと笑う。
「雄のタマよ」
「ヤダ~、それは要らない!」とわたしが大声を出すと皆がドッと笑った。
そう言えばわたしがイタリアに住んでいた頃(ミラノで乳がん切りました/第5章)、イタリア語学校の授業中に日本人の同級生が牛のオッパイを買って食べると言って、先生ともども大騒ぎになったことがある。「そんなものどこで見つけたのよ!?」とフランス人の女生徒が叫び、アメリカインディアンの末裔(まつえい)の男生徒が「そりゃ牛の腹の下でに決まってるだろ!」とちゃかして大笑いになった。「ミラノの南で売ってる。安いんだよ」と最初の男生徒は力説し、少~しお乳の味がするんだ、と説明した。
この時、女性陣は一人残らず「ドン引き」だった(ギョッとして体を反らした)。しかしその後、タマを食べる話になると男性陣が一斉に顔をひきつらせた。女性も男性も、お互い自分の体にもあるものを食べることにはものすごい抵抗を感じるが、自分の体にないものを食べることには平気だったのである。
もらった猪肉は塩麹(こうじ)につけて柔らかくし、焼き肉にした。「フム、牛とも豚とも羊とも違う味だね。美味しいじゃん」と家族でパクパク食べた。
さて、これで猪の捕獲と解体方法が大ざっぱに理解できた。ジンさんたちにはひたすら感謝である。ならば、この夏の「罠免許」の講習会を受けて免許を取り、わたしも猪捕りをめざすか?
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