猪捕り名人のジンさんは、「自分が猪の身になって考えて、猪の警戒心をといて安心感を与えてやれば、猪は罠にかかりやすい」と言う。そのためには、毎日必ず罠を見に行って餌を補給しなければならない。
罠をしかけた時、用意周到なジンさんは餌の米糠(ぬか)を持ってきていて何カ所かに置いてくれた。あくる日、わたしは「猪の身になって」辺りを歩き回り、箱罠の後ろの斜面から左側の池へと曲がって降りていく通路(茶色の点線)に目をつけた。曲がり角の水色バケツの場所に、さらに糠をまく。猪が好きだという栗と熟柿も足す。するとその翌日、そこの糠だけはほぼ全部なくなっていた。
思わずニンマリ。
わたしの読みが当たったわけだ。
なんとも順調なスタートではないか?
しかし、餌を食べているのが猪とは限らない。鳥や狸(たぬき)、穴熊の可能性もある。ジンさんは暗視カメラまでつけて、夜の間にどんな動物が来ているか確かめているのだ。大した執念。
わたしも試しに、檻の後ろの斜面を上がった道を奥まで行ってみた。すると、小さな横穴がいくつか見える。狸か穴熊の巣かもしれない。
亭主殿は「子どもの頃、古い防空壕だか芋穴(さつま芋の貯蔵用)だかがあって、コウモリを捕りに来てたのがこの辺じゃないかな」と言う。亭主殿の小学生時代を想像すると微笑ましい。昭和時代なら半ズボンにランニングシャツか。それにしても、コウモリ捕り、ねぇ。
2週間たった。黄緑色ボウルから水色、黄色バケツまでの糠はなくなる。檻まで10メートルから5メートルのところまで、やっと猪が近づくようになったのだ。ということは檻のすぐ傍に近寄るまで、さらに2週間はかかるだろう。
ひたすら辛抱!