「あ、戸棚のガラス戸の向こうで何か動いた」とわたしが言うと
「ネズミだ! 尻尾が見える」と旦那が答える。
「え、この家でネズミが出るのは何年ぶりでしょ?」
「昔はよくいたよ。農家だからね、いくらでも外から入ってくる。この小さいのがターッッて床を走るんだ。走る場所がいつも決まっててね、途中で僕をチラッと見るんだよ。一瞬目が合うんだ。いかにも『おまえにはとうてい捕まえられないだろう』って感じでね。でまたサッと走って隠れる」
「そうねぇ、お義母さんがまだ一人住まいしてた頃に様子を見に帰って、わたし初めて見たわ。和室で仕事してたら視界の隅を何だかサーッと動くのよ。それも右から左、左から右、って何度も。気が散ってしょうがない。腹が立つから何か投げてやろうと思ったけど、敵もさるもの、わたしの殺気を感じるのね。わたしが手元の本を取って振り上げた途端、消え失せる。その速いこと速いこと。こりゃ当たるわけがない、って諦めた」
けれど今は猫がいる。
ネズミを捕るのは猫のお仕事、さぁ捕ってもらおうじゃないの。
戸棚の中の食べ物を全部出してから猫を入れたところ、30秒でネズミを口にくわえた。
おー、さすが。
ただし、戸を開けて猫を抱えたとたん猫は口を開け、ネズミは逃げた。猫はもう一度前足でネズミを捕まえたが、また放す。おもちゃにして遊ぶのよね、猫は。昔から「猫が鼠を弄(もてあそ)ぶように」っていうとおり。
前足でネズミを押さえている猫を旦那が押さえつけ、その隙にネズミをつまむと、あいや、噛んだ。痛いっ。ネズミはソッコー逃げる。
結局3日後、今度はキッチンミトンで手を保護してネズミをゲット!
モルモットによく似て、とってもかわいい。