わたしは元々バッハ大好き人間で、たまにモーツァルトを聴いてみても、明るすぎるのが気になって好きになれなかった。ところが鬱っぽい気分が続いている間、バッハを聴いても気分が明るくはならない。
試しにモーツァルトをかけてみて驚いた。ひたすら明るく軽快で美しく、邪悪さの一片(ひとかけら)も感じられない。
まさに、天上の音楽。
これか、と思った。モーツァルトが愛される理由がよくわかった。聴く人の凝り固まった心を開放してくれるような、美しく優しい力がある。メロディは魅力的で覚えやすく、CDを聴いていない時でも自然に頭の中に響いてくる。こんな音楽を生み出すことができたモーツァルトはやっぱり天才だ。
オーボエ奏者はドイツの名手、故ローター・コッホ。ドイツ流の硬い乾いた音で、わたしが昔イタリアで習ったオーボエはもっとウェットな柔らかい音だったとは言え、コッホの吹く表情に富んだ音色と高い技術が、モーツァルトの魅力を最大限に表してすばらしいことに変わりはない。
オーボエとバイオリンは音域が似ているので、メインのオーボエに合わせるなら音の低いチェロの方がふさわしいと思っていたが、この「オーボエ四重奏曲ヘ長調K.370」ではチェロよりもバイオリンの音の方が、始終オーボエと絡みあって進んでいく。低い音が少ないので、軽やかな明るさが際立つようだ。そうか、こんな高音域どうしの組み合わせ方もあるのか、と新発見だった。
新型コロナウイルスの感染を恐れて鬱陶しい日々が続くこの頃、モーツァルトはおススメ。柔らかくきらめいているような美しさが、心を軽くしてくれますよ。