イタリアには16世紀だの14世紀だのの昔に建てられた邸宅や教会が今でも残っていて、しみじみ美しい。「はて、日本にもイタリアと同じように美しい伝統建築があっただろうか?」といささか憮然となりながら帰国して山口の亭主殿の実家に行くと、ホラそこにあった。
この家は大正15年に建てられて築90年を超える。屋根の棟の端の恵比寿さんは珍しい。もちろんただの古民家だから特別美しいというわけではないが、それなりの伝統と重厚さを感じさせる。
何度も手を入れて藁(わら)屋根は瓦葺きの中二階となり、土間だった台所は木のフローリングに変わっているものの、家の骨組みはほぼ同じ。鴨居が低くて息子は頭をぶつけるとこぼすが、柱は今時のより一回り太くて安心感がある。当時自分の山から切ってきた「肥(こ)い松」で白アリがかなわないくらい硬いらしい。この家で暮らすと、茨城で建てたマイホームがいかに安普請だったかがよくわかる。
これは残していかないともったいないねぇ。
ただし、台所と居間は北側で日が入らず暗くて寒い。どうにも気が滅入る。リフォームしよう。
工務店に話をしてみて驚いた。何となく予想していた金額の倍以上かかる。改築は新築より安いと思っていたのは大きなまちがいだった。改築には既存部分の解体費用がプラスされるし、今の耐震基準に合うよう補強も必要だ。わたしの書斎を諦めるハメになった。
そういえば、息子一家が一時住んでいた南イタリアのバーリにも「歴史的地区」があって、観光客用に辺りの道にはゴミが散らかっていない。ドイツ人の同僚がその清潔さを気に入って住もうとしたら、家賃がやけに高かった。
どこでも古い建物の保存・改修には金がかかるわけだ。納得。