近所の耕作放棄地はまるで、土筆(ツクシ)の林。
裏のユキさんはツクシの炒め煮が大好きだと言う。わたしも亭主殿も、子どもの頃ツクシを取ってきては、母親にせがんで料理してもらったことがあるが、うまいと思った記憶はない。
「袴(はかま)を取るのがコツよ」とユキさんは言う。袴は茎の節を囲んでいるモショモショだ。
「それって、すごく手間がかからない?」
「かかるわよ。だけど、全然味が違う。それからね、ツクシの先がもう茶色っぽくなったり、開いたりしてるのはダメ。先っぽがまだちょっと青みがかって、段々の間が詰まって硬いくらいでないとね」
ということは、この写真のツクシはほとんどがもう、食用に向かないということだ。それでも中にはまだ、先が開いてないのが見えるから、そればかり選んで採ればいい。
先が開きたてのツクシに触ると、段々の間から細かい胞子がスプレーのようにポッと飛ぶ。
ツクシは羊歯(シダ)と同じ胞子植物なのだ。花が咲いて種をつけるフツーの植物よりも古い種類である。人間が登場するよりはるか前から、胞子植物はこの地球上に生えていた。たとえば大小の恐竜が闊歩していた2億年前。
その風景を想像すると、現代の機械文明が発達した便利で複雑な世界から、一瞬で、緑と茶色ばかりの世界に心が飛んで、何だかなごみ、思わずニンマリとしてしまう。