大きなホームセンターでわたしが「洋折れはどこにあるの?」と尋ねると、店員さんは『洋折れ』を知らない。「あのね、壁に何か掛けたい時に使うもので、ねじ釘がついてる。で、掛けるところが丸くなくて直角に曲がってるヤツ」と説明すると、「ああ、あれですか」。「わたし、名前まちがってたかな? あなたは何て呼んでる?」と聞くと、「うーん、L字フック、かな」と首をかしげられた。
「ここですよ」と棚の前に案内される。「ホラ、『よーおれ』って書いてある。でも、L字フックの方がわかりやすいわね」とわたしが笑うと、「えっ、俺知らなかった! 何これ!?」と若い店員さんはのけぞる。
「ほかの金具にもおもしろい名前がついてるわよ。ここ見て。『よーと』に『ひーとん』」とわたしが指さすと、彼はもう一度「えーっ」と叫んで爆笑した。「ひーとん、って何の豚かと思うわよねぇ」とわたしもクスクス笑う。
調べてみると、『よーと』の語源は「洋灯吊り」で、昔は電灯(西洋の灯り)を吊るすのに使っていたのだろう。掛けるところが丸い。ここから、掛けるところが直角に折れているものには『洋折れ』という名前がついたのではなかろうか。英語では『よーと』が cup hook(カップ掛け)で、『よーおれ』は square cup hook(四角いカップ掛け)か L shaped hook(L字型のフック)。店員さんの言ったとおりだ。
一方、『ひーとん』の語源はフランス語で、登山道具らしい。英語では screw eye bolt(穴つきのねじ釘)。英語では縫い針の穴なんぞも eye(目)というから、この方がよほどわかりやすい。
妙なところで昔ながらの名前が残っているものだ。
よーと、よーおれ、ひーとん。あなたは知ってた?