動物の品種名を2,000和訳するハメになった。
まだしもペットの犬や猫なら、ネット検索すれば日本語の品種リストが見つかるが、家畜の馬や牛、羊、鶏となると、日本で飼われている品種は少ない。一つひとつ英語で調査すると、品種名は「秋田犬」や「木曽駒」のように産地名がもとになっていることが多い。産地はアジア、中東、ヨーロッパ、アフリカ、中南米と世界中にわたり、有名な観光地ならともかく、アフガニスタンの谷とかエジプトの村の名前なんて、日本語での読み方はまずわからない。
たまに日本語の地名が見つかっても、プロの翻訳屋としては再度ネット検索し、日本語で使われている事例が多くないと信用できず、使えない。くたびれ果てた。
品種の後は用語集が延々続く。ストーリーがなくて、あー退屈。イヤイヤ、お仕事に文句を言ってはいけない。辛抱、辛抱。
中には歯科用語がある。主に医薬業界の翻訳をして13年たつが、今までわたしは歯科の文書を訳したことがない。ちと緊張して作業していると、denture(デンチャー)という語が出てきた。いわゆる「入れ歯」「総入れ歯」だ。専門用語で何というか調べると「有床義歯」。なるほど、歯茎をカバーする部分が「床」ね。
納得したところでハタと気がついた。今訳しているのは全部、動物用の用語なのだが……?
ペットのハムスターにしろ野生のワニにしろ、「ハイ、お口開けて。ちょっと痛いですよ」と歯医者に言われて、おとなしく口を開けているわけがない。「どこか具合の悪いところはありませんか?」と聞かれて、「歯茎のここが痛いです」と答えられもしない。いったいどんな動物に入れ歯を入れるというのだ?
深夜の書斎でわたしは一人爆笑した。