この鳥の特技は左右の足の長さを調節して、垂直な枝に止まっていられることだ。野鳥好きだった父が昔教えてくれた。わたしに見られていると気づくと葭切(ヨシキリ)は警戒し、そのままの姿勢でつ、つ、つ、と器用に枝を伝って下がっていき、草むらに姿を消した。
ヨシキリはよく鳴く。
陽のある間はほぼ一日中鳴いている。やや低音でけたたましく、遠慮のない中年女のお喋りを思わせる。姦(かしま)しい、ということばがピッタリ。わたしは我が身をかえりみてあまり好きではなかった。
ところが一去年、ウチの前の楓の木に居座った1羽が鳴くのを亭主殿が聞いて、「この鳥はすごいな」と言う。
「ふつう鳥の鳴き声はピーピーとか、カーカーとかの1種類だけだろ。せいぜいホーホケキョ。でもこいつはジージー、チュクチュク、ジャガジャガ、ピーピー、キョキョキョと、何種類もの鳴き方を続けざまにする。こんな鳥はほかにいないよ。いったいこの鳥の口はどうなってるんだろう?」と感心する。言われてみればそのとおりで、この鳥に対するわたしの好感度は少し上がった。
毎年梅もぎに来る友人も筍掘りに来て、「あのわたしの好きな鳥が鳴いてないわ」と言う。「ああ、ヨシキリね。まだ時期じゃないのよ。5月にならないと鳴き始めない」と答えながら、この人にはあのけたたましい鳴き声が魅力的なのか、とわたしは不思議になった。
鳥に限らず生き物の声というのは生気に満ちている。聞いていると元気が出るではないか。家のリフォームで長屋を解体してしまったから、今年はツバメが巣をかけず、ピーチクパーチクも聞こえない。代わりにヨシキリだ。
気がつくと、わたしもヨシキリの鳴き声が好きになっている。