Monthly Archives 8月 2022

2022年8月のしおり ニューロンは一方通行

各月のしおり 翻訳

技術翻訳をしていると、大腸癌などのように同じテーマで、英語と日本語の文書をそれぞれ英訳・和訳する仕事がくることがある。

内容はある程度共通しているのだから、英訳の次に和訳をしてもタッタカタッタカ進むかというと、妙につまずく。和訳をしながら、3日前に別の日本語文書を英訳したときに読んだ用語だよね、と思いつつ、その日本語が思い出せないのだ。亭主殿も同じことを言っていた。2人顔を見合わせて「不思議だね、おんなじ英語と日本語やのに、なんでやろ?」と首をかしげる。

その疑問が、脳の病気の文書を訳すための調査で氷解した。

脳ミソのどこに視覚領域、言語領域、運動領域などがあるのかは解明されている。たぶん母国語(日本語)領域と外国語(英語やイタリア語)領域の場所もわかっているんだろう。

しかし脳ミソはこういう「領域」だけで構成されているわけではなく、各領域間や領域内のいろんな場所をつなぐ「通路」である神経線維(ニューロン)の存在も重要だ。ニューロンは情報を電気信号という形で伝えている。ある場所に情報があっても、それを別の場所に伝えるニューロンの働きがなければ、人間は思考や行動ができない。

翻訳する際には、和訳では英語領域から日本語領域に情報が伝わる。英訳では日本語領域から英語領域へという方向だ。が、この情報伝達はあくまで一方通行なのだ。

つまり、英語領域と日本語領域の間には通路があるのだが、通路は2本。間にはいわば中央分離帯があって、「英語から日本語へ」と「日本語から英語へ」のルートは交じり合わない仕掛けになっている。

なるほどねぇ、小難しい医学的知識でも、たまには日常生活の役に立ったよ。