しばらく仕事がなくて暇だったのだが、6月の終わりから立て続けに翻訳依頼が来た。21日間休みなし、最悪の日は1日15時間働く始末。
ところが7月半ばに疲労困憊しながら最後の納品をしたのに、「受け取りました」という返事が来ない。この翻訳会社はイダさんという人が一人で切り盛りしている。イダさんが糖尿病で週3回透析に通っていると聞いたのは何年前だろう。
「クライアントに納品できたのだろうか、そしてイダさんに何かあったのでは?」と不安になっていると、今回の案件をイダさんに仲介した別の翻訳会社から連絡が来た。「訳文が届いてないからウチに直接送ってくれ」と言われ、これでクライアントには訳文が届くと安心した。そして、イダさんは亡くなっていたと、その会社の社長から知らされた。
やっぱり。
合掌。
しかも、「遺族は遺産放棄するそうです。イダさんの口座を管理する人が誰もいなくなります。あなたに翻訳料金が支払われるかどうか……」と言われた。
ゲゲッ。
7月分の案件は全部英訳で量も多かったから、翻訳料金は約30万円。わたしには破格の大金だ。それが入らないのか?
まず労働基準局に相談し、次に中小企業局の「下請け駆け込み寺」、最後には東京第二弁護士会の「フリーランス・トラブル110番」にまで無料相談したが、結局、無理だとわかった。
ガックリ。
しかし、取引先が倒産して代金が入らないなんて、ビジネスではよくある話。世の中、厳しい。
それに、イダさんには私が翻訳を始めた頃からさんざん世話になっている。この人のおかげでわたしは一人前の翻訳屋になれたようなものだ。イダさんへの香典と思うしかない。
それにしても、30万円はでかい。
嗚呼(ああ)。