Monthly Archives 12月 2024

2024年12月のしおり Mの意味

各月のしおり 文化・スポーツ

1995年、わたしはアメリカ ミシガン州で短大に通っていた。

当時わたしは37歳。将来は翻訳か通訳を仕事にしたいと、日本で4児を産み育てながら英語の勉強をずっと続けていたから、夫の転勤で1年間のアメリカ滞在は、おそらくは人生で最初で最後の、英語で英語を学ぶ、絶対に逃がせない機会だった。カラマズー・ヴァリー・コミュニティカレッジの入試を受けて合格し、7歳と6歳の子を小学校に、4歳と1歳を託児所に送ってから、短大に通う。

家事と育児を考えると、毎日1講座が精いっぱい。睡眠時間を削って予習・復習や宿題をこなす中で、猛烈におもしろかったのが「文化人類学」だった。ウェスタンミシガン大から来るビル教授の人気講座で、教室はほぼ満席。

余談も抜群だった。たとえば……

「君たち、ちょっと想像してみて欲しいんだがね。今の人類が、核戦争か何かで滅亡してしまったとする。そして数千年後、まったく別の文明が栄えたとする。すると、僕たちみたいな文化人類学者や考古学者が、遺跡を掘って調べるだろう。

何を見つけるか? あっちでもこっちでも出てくるのは、Mの字の看板だな。そう、マクドナルドハンバーガーの店の跡だ。未来の学者は、これだけたくさん見つかるなら宗教施設だと考えるだろう」

学生たちは笑い始めるが、教授はまじめな顔で続ける。

「いったいどんな宗教か? Mの字には山が2つある。すぐに想像できるのは、女性の胸だな。つまり、僕たちの時代の宗教は女性崇拝だったと、未来では解釈されるだろう」

もう教室中、爆笑の渦だ。

30年後の今、ロシアや中国がきな臭い。Mの看板を見るたび、この文化人類学的な笑い話を思い出し、人類滅亡もあるかと眉をひそめるのだ。