年末年始、猪はパタリと来ない。野生動物はあちこち歩き回るので、3日続けて来たと思ったら1、2週間音沙汰なし、というのは珍しくない。ここが我慢のしどころで、毎日行かなければ猪が来たか来ないかもわからないから、糠入りのバケツを片手にしつこく山道を通う。
まず檻から離れた場所の糠がなくなり始め、足跡も見える。しかし猪は用心深く、なかなか檻の中に入らない。やっと檻の中の餌がなくなったから仕掛けると、檻の両方の扉は落ちているのに中は空。それも何度も。
うーーーー、どうしてだ?
亭主殿は「この罠は古いよね。センサーの竹が動いてから、箱罠の上の仕掛けがカチリと外れて両側の扉が落ちるまでに、1秒ほど間がある。その間に賢い猪は逃げるんじゃないか?」と言い出した。ありそうなことだ。そういえば猟師仲間のコハミちゃんも以前「扉は片方だけ開けたらいいんじゃないの?」と言っていた。
よし、扉は1つだけ開けよう。猪が用心して中に入らない確率は高くなるが、一度入れば捕れる可能性は上がる。そして空白の1秒は消えた。
1月26日。オオー、2頭入ってる!
それもけっこうでかい。40~50キロか。ジンさんには控えめに40キロと言ったら、実際には62キロと57キロ。両方雌で、亭主殿も入れて5人で解体すると、私並みに丸々と肥えて脂がのっていた。精肉が合計53キロ、大猟だ。美味。
猟友会のメンバーには団塊の世代が多く、昭和レトロの感覚でどうも女はバカにされている気配があった。猟師は猪を捕ってナンボだから我慢していたが、今回2頭捕れたと知って、一番辛口のオッサンが真顔で「おめでとう」と言ったもので、私は嬉しいよりたまげて、数秒呆然とその顔を眺めていた。