ジャーマンアイリスは花が大きくて色に深みがある。豪華だ。
義母が一番好きだったのは小豆(あずき)色で、「わたしゃ洋服でも茶色と緑が好きなんよ。お父さんにゃぁ、もうちぃと明るい派手な色を着い(着なさい)、て言われるんじゃがねぇ」と笑っていた。
だから最初に小豆色のジャーマンアイリスが咲き始めると、義母のことを思い出す。
義母はわたしによくしてくれた。
わたしも義母が好きだった。若いころのわたしはわがままし放題の嫁だったと思うが、よく顔を見せた。わりに近くに住んでいた間は毎週末帰って、上の3人の子はこの家で産んだ。わたしにとっては、実家より嫁ぎ先の方が気楽で居心地がよかったのだ。義母がわたしに親切だったのは、娘が欲しかったけれどいなかったから、という理由もあったらしい。
いっぽうで義母は、わたしの悪口をずいぶん親戚に言っていた。意外だが当然でもある。姑が嫁の悪口を言うのは日本の文化だから。だけど、義母はわたしに面と向かって嫌味たらたら、ということはなかった。「あれはいけないよ」と言う時にはストレートに短く告げる。さっぱりしていた。
他人にわたしの悪口を言うのはいわばガス抜きであって、義母はわたしとの直接の付き合いは良好に保ちたかったのだろうと思う。わたしもよそで義母の悪口を言いながら、本人には笑顔を向けていたもの。
ジャーマンアイリスは小豆色が咲き終わるころ、紫の濃淡がたくさん咲く。わたしはこっちが好きだ。義母が元気な間は肌色の花も4、5本咲いていた。それが最近植え替えてみると、黄色が咲き始めたのに驚いた。その後さらに水色、今年はピンクまで増えた。
華やかでいいなぁ。
ホトトギスの初鳴きが聞こえる。