11月のしおり 黄色いカボス

各月のしおり 料理・食べ物 自然・動物・農業

庭のカボスが色づいてきた。

見ていると、数年前茨城に住んでいた頃にも、秋刀魚の塩焼きにこんな黄色いカボスをつけた時のことを思い出す。今は亡き父が「こりゃ何じゃ?」と聞いた。父がカボスを知らないわけはない。目をパチクリしつつ、わたしが「カボスよ」と答えると、父は「カボスというものは緑色じゃないのか?」と不思議がったのだ。「そりゃお父さん、若いうちは緑じゃけど、カボスだって熟れたら黄色くなるよ」と笑ったものだ。

そういえば確かに、店先では黄色いカボスを見た記憶がない。売り物にならないのだろう。カボスが熟すと、酸味が減って甘味が増してくる。これはこれで、旨い。

亭主殿がシスという魚を何匹か、漁師さんからもらって来た。掌(てのひら)サイズというか、掌に五本の指を足したくらいの大きさの淡白な魚である。わたしは今まで料理したことがなかった。はて、どうしたものかと首をひねった挙句、頭と尻尾をとってから南蛮漬けにしたところ、ひどく旨かった。ラッキョウ酢の残りにカボスを絞り込み、ついでに皮もすり下ろして入れると香りもいい。

それまでは長いあいだ、魚を油で揚げてから甘酢につけるなどという面倒なことはしたことがなく、もっぱら産直店で出来合いを買ってきては、手抜きの昼飯に出すだけだった。買った南蛮漬けは魚が硬いし、わたしには甘みも酸味も強過ぎる。それが、自宅でつくると自分好みの薄味の上に魚は新しいとくるから、まるで次元の違う旨いものに仕上がった、というわけだ。

カボスのおかげで、秋らしい一品が楽しめた。

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