ジンさんは農作業用の小型のエンジン付き運搬車に小さめの檻を乗っけて来ていた。その小さい檻を罠用の大きな檻の出口にくっつけ、ジンさんの仲間が反対側からちょいと猪を追い立て、小さい檻に猪を追い込んで戸を閉める。ガッチリ戸が閉まったのを確認すると、罠の檻から離し、小さい檻を運搬車に乗っけた。見ると、小さい檻にも車輪と押し手がついている。たぶん自家製だ。
軽トラックの荷台に小さい檻を乗っけると、ジンさんは仲間にそこの棒を引っ張ってくれ、と頼んだ。小さい檻の中には格子状の仕切りがあって、端の棒2本を引っ張ると仕切りが動く。猪は両側から挟まれて身動きできなくなった。輸送中の安全措置である。
「解体場所に移動するよ、ついておいで」とジンさんがわたしとケイさんに言う。解体場所は町境の山道を少し上っていった民家の下にあった。ここなら、たとえ少々血が流れても臭いがしても、苦情が出ることはなかろう。
猪の檻を軽トラから降ろすと、ジンさんは空気銃を構え、動き回る猪相手に少し時間をかけて狙いを定めると、正確に猪の眉間を打ち抜いた。お見事。これなら猪の苦痛も最小限だ。
猟銃免許のことを聞いてみると、ジンさんはおもしろいことを言った。1日講習を受けた翌日に試験があるが、たとえ試験の点が良くても、その後に警察が受験者の言動を周囲で尋ねて回ることになっているというのだ。酒癖が悪い者、夫婦仲が悪い者、そしてサラ金なんかに賭け事などの借金がある者には免許がおりないらしい。
わたしは思わず声をあげて笑ってしまった。理屈に合っている。銃は危険だから、頭に血が上ったり金に困ったりしたあげく人間に向けかねない人には、使わせない方が安全である。さすが日本。アメリカとは大違い。
「それに比べてな、罠の免許はカンタンにおりるのよ」と彼は続けた。これも理屈に合っている。人への危険はないし、害獣駆除には世間のニーズがあるのだから。
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