猪捕り名人のジンさんは、「自分が猪の身になって考えて、猪の警戒心をといて安心感を与えてやれば、猪は罠にかかりやすい」と言う。そのためには、毎日必ず罠を見に行って餌を補給しなければならない。
罠をしかけた時、用意周到なジンさんは餌の米糠(ぬか)を持ってきていて何カ所かに置いてくれた。あくる日、わたしは「猪の身になって」辺りを歩き回り、箱罠の後ろの斜面から左側の池へと曲がって降りていく通路(茶色の点線)に目をつけた。曲がり角の水色バケツの場所に、さらに糠をまく。猪が好きだという栗と熟柿も足す。するとその翌日、そこの糠だけはほぼ全部なくなっていた。
思わずニンマリ。
わたしの読みが当たったわけだ。
なんとも順調なスタートではないか?
しかし、餌を食べているのが猪とは限らない。鳥や狸(たぬき)、穴熊の可能性もある。ジンさんは暗視カメラまでつけて、夜の間にどんな動物が来ているか確かめているのだ。大した執念。
わたしも試しに、檻の後ろの斜面を上がった道を奥まで行ってみた。すると、小さな横穴がいくつか見える。狸か穴熊の巣かもしれない。
亭主殿は「子どもの頃、古い防空壕だか芋穴(さつま芋の貯蔵用)だかがあって、コウモリを捕りに来てたのがこの辺じゃないかな」と言う。亭主殿の小学生時代を想像すると微笑ましい。昭和時代なら半ズボンにランニングシャツか。それにしても、コウモリ捕り、ねぇ。
2週間たった。黄緑色ボウルから水色、黄色バケツまでの糠はなくなる。檻まで10メートルから5メートルのところまで、やっと猪が近づくようになったのだ。ということは檻のすぐ傍に近寄るまで、さらに2週間はかかるだろう。
ひたすら辛抱!
2 Comments
SS
2019年12月14日 at 2:39 PM久々にサイト覗いてみたら、あれまあ新作がいくつも。
それにしても相変わらず観察力推察力がすごいねえ。
とても楽しめます
稲作の未来はぜひとも娘に読ませたい。
彼女は農業の趣味のレベルと経済効率(生活できる経済力)をいかに両立させるか、ということを勉強したくて農学大学院に在籍中だが、道遠し、の様である。
SS
2024年3月3日 at 2:37 AMまたしても、全くの久々にサイト訪問。素敵なエッセイに心ゆすぶられる。
先日娘の連れ合いが、銃の免許を取ってユーコン州にバイソンハンティングに行ったと話す。
えっ、ハンティング?
なんということだ、危惧と嫌悪と心配で、反応に苦慮。
そうしたら、ハンティング成功、というメールとともに写真がおくられてきた。
このイノシシ捕獲、解体と全く同様。ただし規模はその100倍近い。バイソンは2トン近くもある巨体である。これを兄弟2人だけでこなした、というからすごい。
娘は10年くらい前は菜食主義だったのだ。
矛盾はないのか聞いてみると、まどかちゃんの記することとと全く同様なことをのたもうた。
動物を食するためには、観察、捕獲から解体加工、料理までの全工程を理解して実行しなければならない、と。
それにしても、まどかちゃんの見事な観察力記述力に相変わらず驚嘆。