町中のサラリーマン家庭に育ったわたしは、農家の跡取りと結婚して「自給自足にかなり近いのでは?」と驚いた。山からどんぐりやくぬぎの木を切ってきて、椎茸まで栽培しているではないか。
どんぐりの枝は、乾燥させてから1メートルほどの長さに切り、ドリルでいくつも小穴を開ける。小さな円柱状の椎茸の種菌を植え込んだら、1年ほど地面に寝かせて菌糸が広がるのを待った後、木陰に立てかけておく。すると3年目くらいの秋から冬にかけて、特に雨の後、こんな風にモコモコと椎茸が生えてくる。
かわいいでしょ。ステキでしょ。「生命」を感じるよね。
ゆっくりと自然に育った椎茸は、おがくずで手っ取り早く温室栽培されたものに比べ、圧倒的にうまい。椎茸の味が濃いのだ。笠の広がる前の丸っこい頃が一番で、肉厚だから歯ごたえもいい。
ウチではまず、オーブントースターかグリルで素焼きにする。乾いて少しきつね色がつくまで長めにしっかり焼いたら、カボスを絞ってしょうゆをかけ、熱々のうちに急いで食べる。
まさに椎茸、という味がするよ。
辛口の日本酒が合うね。
そして5、6年すると原木は次つぎに腐って朽ちてしまい、椎茸は生えなくなる。
生き物だから寿命があるのだ。この原木は今回残った最後の1本で、来年はもう無理かもしれない。ちょうど裏山のどんぐりが大木になり過ぎて、すぐ傍の墓の土台が傾きはしないかと亭主が心配し、この冬の間に従兄と2人でチェーンソーを使って切り倒そうと言っている。そしたら枝で椎茸をまたつくろう。
どんぐりの木は自分の生命が終わっても、椎茸の生命を育ててくれる。 農家の暮らしは、そんなふうに生まれては育ち、老いては消える生命に満ちている。
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