犬と一緒に散歩していると、このきれいな薄紫の花が農道の横や田んぼのあぜ道に群生している。草丈は5センチあるかないかで、蘭を思わせる花も小指の先ほどの小ささだ。
「あ、今年もこの可愛い花が咲いた」と思うと嬉しくなる。
調べてみると紫鷺苔(ムラサキサギゴケ)という名前らしい。花びらの形が鳥の鷺を思わせるが、地を這(は)うように低いから、苔の仲間ではないのに苔の名がついたのだろう。
しかし長いこと、わたしはこの花の名を知らず、知ろうとも思わなかった。
たとえ名前を知っても、わたしがこの花を美しいと愛(め)でる気持ちにはなんの変化もないだろうと思っていたし、むしろ「名もない野の草」という感覚の方が、あまり人に知られず道端に咲くこの小さな花にふさわしいような気がしていたのだ。
この花は人が自分を何と名づけたか知らないだろう。知りたいとも思わないだろう。花にそんな意識はないのだから。花は自然の理(ことわり)のままに、時期がくれば美しく可憐に咲いて、時期がくれば枯れていく。
それでも、この花はわたしをちょっと幸せにしてくれる。
ね、春ってすてき。
珍しく一句できた。
野の花の可憐 名を知らぬもよし
どう?
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