この雛は生後10日ほどらしい。まだ羽が充分生えそろっていなくて地肌が見える。
どうも親が卵を抱いていないようだから雛が孵(かえ)ったのではないか、と脚立を立ててスマホを向けて見ると、フラッシュに反応して一斉に「大口はっちょる(大きく口を開けている)」写真が撮れた。
ゴメンね、餌を持って来てなくて。
ところがその4日後の夜、親ツバメが警戒している声が鋭く聞こえた。胸騒ぎがして行ってみると、蛇がこれとは別の巣に登っているではないか。ウチの長屋には今年も7つの巣が新築されて、5つに雛がいるのだ。
あわてて亭主殿を呼ぶと、彼は傍の細い角材で蛇をつついて落とした。が、「蛇を殺すと祟りがあるとか言うし、自然のことじゃけしょうがない」と、蛇は無罪放免だ。巣には腹をやられた親ツバメ1羽だけが残っている。可哀そうに。
その1時間後、長屋の上の書斎でわたしが急ぎの翻訳をしていると、危急を告げるツバメの鳴き声がまた響く。すわ、と階段をドシドシ踏み鳴らして駆け降りると、もはや蛇の姿はない。しかし、今夜は蛇が再来するに違いないから、油断はできないと身構えていると、その後何度もツバメの鋭い声に仕事を中断して下りるハメになった。
そして6回目は……もう遅かった。写真に撮った巣に蛇が巻き付いている。怒り狂ったわたしが蛇を角材で突くと、勢い余って蛇と巣が一緒に落ちた。わたしは迷わず蛇を殺した。
そして土間を見ると、けなげにも雛が3羽生きている。
よかった!
雛を手で拾いあげると、フニャフニャと柔らかくて暖かい。思わず笑みが浮かぶ。そっと別の空の巣に移してやる。
翌日、親はちゃんと自分の雛を見つけたようで餌をやっていた。
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