11月、去年と同じで箱罠の檻の外に置いた餌はなくなるが、檻の中の餌はなくならない。野生動物は用心して檻に入らないのだ。
去年と違うのは、餌の米糠(ぬか)が箒(ほうき)で掃いたようにきれいになくなっていること。こんな食べ方をするのは猪だけで、図体の小さい狸や穴熊なら全部は食べない。師匠のジンさんに習った見分け方だ。これならたぶん猪。
わたしは猪が一歩でも中に入ってくれるように、檻の外と中の境にかけて糠の山をつくってみたり、檻の中だけ糠を置いてみたり、檻の外にも置いてみたり、と毎日工夫するがひと月以上、ヤツは檻の外の餌しか喰わない。
うーむ、こりゃ今年もダメか、と諦めかけていたら、12月の半ばに突如、檻の中の餌がなくなり始めた。やっと猪は警戒を解いたらしい。檻の上の仕掛けも2回外れている。
こ、これは、いい兆し!
喜んでジンさんに知らせると、「ほぼ捕獲間近。仕掛けのロックを外せ」。ホッホッホッと思わず笑いが出た。が、それからさらに1週間は、檻の中の餌がいつもきれいになくなるとは限らない。またしても忍耐だ。
それがついに12月23日の朝、檻の近くの親戚から電話があった。「夜中の3時ごろガチャンと音がしてね、朝になって見たら檻の中で何やら歩き回りよる。捕れちょるよ」
やった!!!
53キロの雄の猪だった。背骨の上の毛がたてがみのように長い。
「猪は最初の1年に20キロ、その後は毎年10キロほど体重が増え続ける。こいつは4、5歳かの。猪の寿命は16~17年らしいけぇ人間なら二十歳前後じゃろ」とジンさん。
猟友会のメンバー4人と解体して、20キロ超の精肉がとれた。5人で肉を分ける。
初めて猪が捕れた……なんともいえず嬉しい。
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