2021年11月のしおり 秋の完熟

各月のしおり 料理・食べ物

無花果(イチジク)もバナナも完熟すると皮がはじけるとは、この歳になって初めて知った。植物が実の皮をはじけさせる目的は、匂いを振りまいて虫や鳥を呼び寄せることだろう。そうすれば種があちこちに運ばれていく。

人間にとっては、果物の皮がはじけたら最高においしい時期が来たのだとわかる。無花果ってこんなにおいしかったの、というほど豊潤なうま味と甘味がある。未熟な時に収穫されて店頭に並ぶ果物では、味わえないおいしさだ。

小さくて皮が赤紫のバナナは「寒さに強いバナナ(8月のしおり バナナの花)」で、普通の黄色いバナナより酸味と野性味が強いが、味は確かにバナナだ。うまい。

ただ、黒い種がやたらと大きくて多いのには閉口する。種は果肉によくくっついていてペッペッと吐き出しにくく、噛むとすぐ割れるから、わたしは実と一緒にのみこむ。種をのみこんでも、そのまま身体を通過するだけで害はないだろう。木通(アケビ)の実にそっくりだから、通称は「アケビバナナ」。

そうしてみると、実が小さいところ、種が大きいところ、皮がはじける前の実は全然甘くなくてまずいところは、バナナの原種に近いんじゃないかと思う。数千年前の原始人も食べていたのかと想像すると、なんだか楽しくなる。

問題は、皮がはじけた果実にはたいてい鴉(カラス)や蟻(アリ)が先に来て、ご馳走様してることだ。アイツらはなかなか賢くて、人間が「もうちょっとで完熟だから、明日また来てみよう」と待っていると、その次の日にはちゃんともう食っている。悔しい思いをしたことは一度や二度ではない。

この人間と鳥や虫との競争という点も、原始時代と同じなのかもしれない。

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