2022年4月のしおり されど野に咲け

各月のしおり 自然・動物・農業

このピンク色の可愛らしい花は、道端や畑の、ほんとにどこにでも咲いているただの雑草だが、わたしは小学生のころから好きだった。「ホトケノザ(仏の座)という名前は、花の下の葉っぱが丸っこくて、お寺の仏様が座っている下の台に似ているかららしいけど、そんなしかつめらしい名前じゃなくて、もっと可愛らしい名前ならいいのに」といつも思っていた。

だから抜きたくはない。可憐(かれん)なままに咲かせておきたい。

しかし、義母が好きだったジャーマンアイリスの芽が出始めた間とか、畑のルッコラやほうれん草の横だと、抜かないわけにもいかない。

以前茨城で造成地を買ってマイホームを建てた時、敷地は自分のものだから、そこに生える草は「わたしの土地への侵入者」だと思っていた。しかし山口県のド田舎に引っ越してみると、土があれば草が生えるのはあたりまえで、その地面を整地して家を建てたり庭木や花を植えたりする人間の方が「自然への侵入者」なのだということがよくわかる。

「ごめんね、あんたを抜いちゃって。ウチの土地でなかったら、ほっといてあげられるんだけど。『やはり野に置け蓮華草(れんげそう)』じゃなくて『頼むから野に咲け仏の座』だわ。イヤイヤ、この言い方は無粋ね。『されど野に咲け仏の座』かしらん」と内心つぶやきながら、せっせとホトケノザや、これも空色の花が愛らしいオオイヌノフグリ、根の深いスギナやヨモギを抜く。

あ、蛙が鳴き始めた。ケロロロ、ケロロロロと透明感のある高い声は、3月か4月でないと聞けない。聴いているわたしの心も軽やかになる。蛙の種類も顔も知らないが、わたしの大好きな蛙だ。

You Might Also Like

No Comments

メッセージをどうぞ / Leave a Reply

*