2022年9月のしおり 30万円タダ働き

各月のしおり 翻訳

しばらく仕事がなくて暇だったのだが、6月の終わりから立て続けに翻訳依頼が来た。21日間休みなし、最悪の日は1日15時間働く始末。

ところが7月半ばに疲労困憊しながら最後の納品をしたのに、「受け取りました」という返事が来ない。この翻訳会社はイダさんという人が一人で切り盛りしている。イダさんが糖尿病で週3回透析に通っていると聞いたのは何年前だろう。

「クライアントに納品できたのだろうか、そしてイダさんに何かあったのでは?」と不安になっていると、今回の案件をイダさんに仲介した別の翻訳会社から連絡が来た。「訳文が届いてないからウチに直接送ってくれ」と言われ、これでクライアントには訳文が届くと安心した。そして、イダさんは亡くなっていたと、その会社の社長から知らされた。

やっぱり。

合掌。

しかも、「遺族は遺産放棄するそうです。イダさんの口座を管理する人が誰もいなくなります。あなたに翻訳料金が支払われるかどうか……」と言われた。

ゲゲッ。

7月分の案件は全部英訳で量も多かったから、翻訳料金は約30万円。わたしには破格の大金だ。それが入らないのか?

まず労働基準局に相談し、次に中小企業局の「下請け駆け込み寺」、最後には東京第二弁護士会の「フリーランス・トラブル110番」にまで無料相談したが、結局、無理だとわかった。

ガックリ。

しかし、取引先が倒産して代金が入らないなんて、ビジネスではよくある話。世の中、厳しい。

それに、イダさんには私が翻訳を始めた頃からさんざん世話になっている。この人のおかげでわたしは一人前の翻訳屋になれたようなものだ。イダさんへの香典と思うしかない。

それにしても、30万円はでかい。

嗚呼(ああ)。

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2 Comments

  • Reply
    SS
    2022年12月19日 at 11:01 AM

    この話少しおかしい、
    仲介者に依頼主は支払ったとしても、実際の仕事をした人に何も者払われない、ということがあるだろうか?
    依頼主は、仲介料を引いた額を実際の仕事をした人に払う義務があるとおもう。
    このことに日本の法律関係の人が何の役にも立たないなんて、これも信じられない。

  • Reply
    madokajinsei
    2023年12月2日 at 1:38 AM

    SSさん、どうもありがとう。
    別の翻訳会社の社長は親切だったんですよ。
    「個人的には、あなたに申し訳ないと思う。ウチがクライアントから受け取った料金を、あなたに直接払うことができたらいいんですが、この案件はあくまでイダさんの会社が仲介しているので、ウチはイダさんの口座に振り込むしかありません。あなたに直接払ってしまったら、もうウチはこの業界でやっていくことはできません」と説明し、イダさんの遺族の連絡先も教えてくれたんです。
    確かに、発注先と支払先が違ったら、経理や監査が通りませんよね。
    それに、初めて知ったんですが、イダさんには会社設立のための借金がかなりあって、家族は迷惑していたみたいでした。

    今や翻訳業界はAI翻訳の出現・進化で危機に見舞われていますが、イダさんが会社を設立した時点では、そんな未来を予測できなかったでしょう。
    他人の人生の裏や、「個人事業主」の限界、ビジネスで未来を読む難しさなど、今まで知らなかったことをいろいろ学習して、ため息をつきつつ、諦めた次第です。

    まどか

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