この小さな絨毯(じゅうたん)は、わたしが買ったのではない。母が32年前トルコに行って買ったものだ。
当時わたしは実家から遠く離れて暮らし、4回目の出産はまだだったとはいえ3児の育児に大わらわだったから、母のトルコ旅行の詳細は知らない。ただ、絨毯が小さいのに100万円で(!)、母がひどく気に入り、スーツケースに入れて持ち帰ったと聞いて、興味をそそられた記憶はある。
しかも、母は手持ちの金が限られていたから10万円だけ手付けとして払い、残りは日本に帰って銀行振込で送ったと聞き、「狡猾なトルコ商人がそれで納得したなら、実際の値打ちは10万円だったに違いない。お人好しの母は騙されたのだろう」と思ったものだ。
今回、ガイドさんにこの話をした。すると彼は予定になかったトルコ絨毯の店にわたしたちを連れて行った。
わたしはそれまで、絨毯は普通の布地と同じように縦糸と横糸で織っていくものだと思っていたのだが、そんな「平織り」では厚みがでない。伝統的な絨毯は、色の違う短い横糸を縦糸2本に巻きつけては切ることを繰り返し、作っていくのだ。とてつもない時間と手間がかかる作業ではないか。当然、高価。
100万円は法外な値段ではなかった!
日本語が上手な店主は、「昔は神戸で店を開いていたので、日本人の美意識と誠実さをよく知っていましたよ。だからトルコでも、手付けと後払いで商売をしてましたけど、外国人の中でも正直に後払いを送ってくるのは日本人だけで、損が続いたので止めました」と語った。
この絨毯の右端には黒字に白く何か見える。ガイドさんに写真を送ると、アラビア文字でヘレケ、有名ブランドらしい。
結果、この絨毯は額に入れて飾ることにした。
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