「いったいどうして猪の罠を仕掛けたりするの? 害獣を駆除して人の役に立ちたいっていう殊勝な心掛け?」と友人に聞かれる。「そりゃあなた、おもしろそうだからよ」とわたしがニヤリと笑うと、「もの好きにもほどがある」という顔をされる。
おもしろいとはつまり、銃を持たないとはいえ、猟をするおもしろさだ。
猟には、動物の生態と心理を読んで知恵を巡らすゲーム、という側面がある。そういえば英語の game には獲物という意味もあった。
しかし現実は甘くなく、獲物の猪が箱罠にまるで近寄ってこなくなった。
退屈したわたしが「これなら穴熊でも狙うか」とぼやいていると、ジンさんが「小さな箱罠を別に貸そう」と言ってくれた。「穴熊は狸よりうまいらしいぞ」とニヤリと笑う。わたしをからかっているのか、と思わずジンさんの顔を見たが、まんざら冗談ではないらしい。
これはおもしろそうだ、とその小さな箱罠を借りて帰り、残っている熟柿を餌に罠を仕掛けた。
1週間ほどは柿がなくなって喜んでいたら、その後は柿がそのまま残っている。柿にはたまに穴が開いているが、それは烏(からす)や鵯(ひよどり)のつついた跡だ。
ちょうど同じころ、「穴熊はコロナウイルスを媒介することがわかっています。気をつけた方がいいですよ」と東京の知人から忠告された。亭主殿も「ここらの穴熊がコロナウイルスを持っているとは思えないけど、用心した方がいいよ」と言う。
ゲッ。
コロナウイルス。
毎日新聞やテレビで大騒ぎの新型肺炎の原因ではないか。これはヤバイ。
今は時期が悪すぎる。
結局、穴熊も諦めるハメになった。……残念。
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