3月に入ると、イノシシが山からの降り口の糠(ヌカ)を食べる回数は増えたが、そこから少し離れたところの糠はなかなか食べてくれない。亭主殿は「もう降り口には餌を置かずに、罠に近いところにだけ餌を置かないと、いつまでたってもイノシシは罠に近寄ってこないよ」と言うが、わたしはそれでイノシシがまったく餌を食べなくなるのがコワイ。
実は子どもの時わたしは「おそれ(こわがり)」と言われていた。根が臆病なのだ。
どうしたものかとジンさんに相談すると「ハイ、何事も挑戦です。イノシシの気持ちになってやってみましょう。独身のころ、ご主人はジワジワ寄って来ましたか? それとも一気に攻めてきましたか?」といかにもジンさんらしい答え。
「ハッハッハ、わたし自身が自分から攻めていくタイプでしたねぇ。ジワジワ近づいて、そろそろいいかなと思ったら、ちょっと押してみる、その繰り返しでした」と返事をしつつ、「そうか、わたしは今イノシシを誘惑しようとしているのか」と気がついた。
すると、なんだか楽しくなってきた。好きな男の反応に一喜一憂しながら、今度は何をどう言ってみようかとワクワクしていた頃を思い出したのだ。とはいえ、それははるか昔。ハテ、具体的には何してたっけ?
まずはともかく、今イノシシがジワジワの時期か押してもいい時期かを見定めねば。よし、まだジワジワだ。もう少し待った後で、攻めてみよう。必ずヤツを落としてみせる。
決心が固まると気が楽になった。ジンさんには「何をぬるいことをしちょるか」と思われるかもしれないが、わたしはわたし。
幸い少しずつイノシシは罠に近づき、今やっと箱罠の入り口まで来た。あと2週間で捕れるかな?
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