「料理の基本は出汁(だし)」と聞く。が、わたしはめんどうで長いこと、だしの素(最近の呼び名は「顆粒だし」か?)と昆布を使っていた。4人の子を産んで育て、実父が同居に来てからは7人分のご飯を毎日つくっていたから、出汁どころではなかったのだ。
それが子どもはみんな巣立ち、亭主殿とわたし双方の両親もあの世へ行ってしまった。夫婦2人のため料理する量は少なく、残り少ない人生では美味しいものを食べたい。ちゃんと出汁をとってみるか。
世のレシピでは、たいてい鰹節と昆布を使う。しかし山口県では、伝統的にいりこ(煮干し)と昆布だ。山口県の三方を囲う日本海と瀬戸内海でとれるのは鰯(いわし)で、遠い太平洋でとれる鰹(かつお)には縁がない。
久しぶりにいりこを買い、昆布と一緒に朝から水につけておいて夕方煮だし、蕪(かぶ)と麩(ふ)のみそ汁をつくって驚いた。
うまい。
だしの素とは味の次元が違う。
もちろん、顆粒だしでもそれなりにうまい。が、そのうま味は単純だ。たぶん、昆布系のグルタミン酸や鰹節系のイノシン酸といった代表的なうま味成分が、人工的に作られた純粋な形で多量に入っているからだろう。それに比べていりこ+昆布だと、もっと柔らかく複雑で豊かな味がする。本物のカタクチイワシや昆布に含まれている、グルタミン酸やイノシン酸以外の多くのうま味成分の効果だと思う。自然素材の力だねぇ。
がぜん、いりこが常備品になった。
煮物、汁物、炊き込みご飯が、みんなうまい。さらにたまげたのは、この出汁で水炊きをこしらえると、おつゆがとんでもなく美味なことで、夫婦二人で感激した。
出汁とりはちょいと面倒だが、報われるひと手間だ。
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