穴熊の美味しさに目覚めた亭主殿は「もう猪はいいから穴熊を捕れ」と言う。わたしは猪でも穴熊でも、とにかく捕りたい。
晴れても降っても、毎日せっせと3カ所の罠を回り、餌の糠(ぬか)の減り方や足跡を観察して、また糠を撒(ま)く。猪は偶蹄類(足の蹄[ひづめ]が偶数本の哺乳類)で、地面に先の尖った細長い楕円形が2つ並んでいたら、猪。5年前のわたしはそれがわからず、犬のような丸い足跡を探していたのだから、まるで素人だった。今でも3頭しか捕っていないんじゃ、万年初心者だねぇ。
新しい罠の周辺には、3センチ弱と5センチの2種類の蹄の跡がある。小さいのは今年生まれたばかりの仔だが、大きいのは成獣で4、50キロはありそう。わたしの狙いは、警戒心が少なく怖いもの知らずのおチビだ。
猪を罠の中まで寄せてくるため、どう餌を置くかが猪猟師の腕だが、わたしはまだまだ試行錯誤の繰り返し。
地面がじるいと、残った糠がすぐカビて饐(す)えた酸っぱい臭いが漂い、黒い髪の毛のような糸まで生えてくるから、平たいスコップで丹念に除く。誰だってご馳走を食べるなら、傍に腐った物がないほうがいいもんね。そして水気を避けるため枯葉を敷き、新しい糠を置く。この枯葉は、最近の工夫だ。
なかなか檻の中の餌がなくならないが、1回なくなれば、よし、仕掛けてみよう。
お、おチビが入ってる!
やったね、11月24日に4頭め。
「30キロくらい」とジンさんに知らせて銃殺を頼むと、実際には8キロしかなかった。笑い話にしかならないサイズだ。食いでがないから解体せずに埋葬。そのうえ、「おまえ、体重の見当をちゃんとつけんかい」と叱られる。
なんでもいい、とにかく捕れた。
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